シリコンバレーで働く普通のサラリーマンの日記

タイトルの通りです。趣味として始めましたので特に気負わずいこうと思います。

Yahoo!ショッピングの無料化くらいじゃ勢力図は大して変わらない

Yahoo!ショッピングの無料化がちょっと前に話題になりました。二番手・三番手以下からの価格攻勢による追い上げは孫さんが得意とする戦術ですが、今回はどうなるんでしょう!?
まず市場シェアを見てみます(2013年2月の楽天決算資料から)。

年: 2010年 2011年 2012年
楽天: 26.6% 27.9% 28.8%
Amazon: 11.0% 11.7% 12.4%
Yahoo!ショッピング: 6.8% 6.6% 6.2%

日本国内の流通金額で見ると楽天がAmazonすら大きく引き離してトップ、Yahoo!ショッピングは遥か後方でシェアを下げており楽天の五分の一程度、このままいくとジリ貧か?という状況であったことが分かります。
インターネットの世界では場所の制約が無いために数少ないプレーヤーに力が集中する傾向にあり、中長期的な目で見るとYahoo!ショッピングはこのままだとどちらにしろ壊滅してしまう可能性があったとも考えられます。
ビジネスモデルを見てみると、楽天は「お店出すならお金ちょうだいね、売れたらその一部もちょうだいね」というお店をお客さんに見立てたモデルが主なのに対して、
Amazonは自前で商品を仕入れて直接消費者に販売するモデルを取っており、両者は良く比較されます。
※実際には双方のビジネスモデルを双方が採用していますが、あくまで軸としている哲学が違っています。
そしてYahoo!ショッピングはこれまで楽天と同じスタイルだったのが、今回「うちは広告で儲けるから、好きに使ってくれていいよ!」という全く新しいモデルに一気に切り替える、と言い出しました。

更に背景としてもう一つ押さえておくべきポイントが、Yahoo!全体のビジネスモデルの主流が広告であるという点です。
ただ、やや忘れられている感もありますが、楽天も意外と広告でも儲けています。が、それでもあくまで主流は手数料。
ショッピングが事業ポートフォリオの一部でしかないYahoo!(もっと言うとIT事業全体に広がっているSBグループ)と、ショッピングが事業の中枢である楽天との大きな違いがここで見て取れます。

■Amazonへの影響
楽天への影響ばかりが取り沙汰されていますが、Amazonへの影響はどうなんでしょう。EC市場全体で見ると、楽天型(中小店舗への場所貸し型)×Amazon型(自分自身が巨大な店舗型)との戦いでもあるわけで、楽天型がパートナー企業への負担を減らす方向に舵を切り始めたことになるので、相対的にライバルが身を切って競争力を高めつつある状態であると言ってもいいかと思います。が、Amazon自身の調達力は変わらないため、そこまで大きな影響は無さそうだなと感じています。

■楽天への影響
はっきり言って、上記のようなシェアの差を鑑みると、短期的にはあまり劇的な変化は起こらない気がしています。今回の無料化はあくまで店舗側の話であって、消費者側への還元ではないからです。消費者はあくまで品揃えの豊富さや送料や配達スピードなど、純粋に自分自身に提供されるサービスの質で判断します。現在の両社の集客力を見ると、中小店舗から見て楽天を切るという選択肢は考えにくいですし、仮にそういう動きが出て来たら楽天側がすぐに条件を切り下げることになると思います。ただ、中長期で見ると、中小店舗から見てYahoo!にも二重出店するコストが非常に小さくなるため、Yahoo!のシェアが向上していくのは予想できます。後は、ソフトバンクのドル箱である携帯電話事業で得た収益を投入して競争力を拡大する方法で楽天を潰しにかかるシナリオも描けます。

■番外編:ドコモとソフトバンクの対比
個人的に面白いなと思ったのは、ドコモとソフトバンクの戦略の対比です。今回孫さんは、EC市場で一定のポジションを確保していたYahoo!ショッピングの売上を放棄してビジネスモデルの転換を図りつつ、該当市場での存在感の向上を狙いました。一方、ドコモは携帯電話事業の収益源を埋めるために買収や合弁会社設立を繰り返してほぼゼロだったEC市場での売上向上を狙っています。これも、事業領域としてもビジネスモデルとしても真逆と言ってもいいような動きとなっていて興味深いですね。数年後に両社の成績をチェックしてみたいです。

■EC事業からの撤退の道筋の可能性
そして孫さんの頭の中には、ダメなら最後は撤退しちゃえという気持ちもあるのかもしれません。ひょっとすると、そのためのステップとしての無料化なのかも?勝者のイメージを非常に大切にする経営者なので、そうだったとしてもやり方はうまく工夫すると思いますけどね。

日本の雇用形態は奴隷制?

これまで伝統的な日本の大企業に勤めてきましたが、つい最近になって、日本企業とは全く文化が異なるアメリカ企業に勤めることになりました。しかも日本法人ではなくアメリカにある本社勤務です。
 
バリバリのアメリカ企業で働くことはもちろん初めてなのですが、その労働環境のあまりの違いに、「これは一体なぜなんだろう!?」と日々悶々としていたのですが、池田信夫さんの記事を読んで共感する点が多かったので、あわせて自分の考えも整理しておきたいと思います。
 
この記事、「「正社員」という奴隷制」というなかなか刺激的なタイトル。
「奴隷」ですよ?いくらなんでもちょっと言い過ぎじゃない?という感じもしますが、内容を読むとそれなりに「なるほど」と思うところがあります。
 
不勉強なためここで初めて知りましたが、組織の構造として、①「オーナーシップ」と②「メンバーシップ」という二つの分類をする手法があるそうで。欧米を初めとする資本主義国では①「オーナーシップ」を採用し、その名の通り資本を持つ者が組織のオーナーとなり、その組織で働く人への指揮命令を可能とする仕組みになっている。
 
日本は形式的にはこの資本主義的な形を取りながらも、実質的には②「メンバーシップ」型の組織構造が主流派となっている。②「メンバーシップ」では実質的に指揮命令権を持つ外部オーナーが不在で、その代わりに組織を構成する構成員(正社員)が自治しているような、むしろ民主主義的なやり方です。
 
一見すると、どちらかと言うと構造的に「奴隷」に近いのは、①「オーナーシップ」なんじゃないだろうかとも思えますが、近年多くの資本主義国では労働者が自分自身を管理していて、オーナーや組織を自ら選ぶ権利と機会が与えられているので、自分の待遇が気に食わない労働者は別の機会を探す権利を行使でき、労働者として優秀で希少価値があればあるほどその力を増します。この点で、自分自身を所有するのが他人であったかつての「奴隷」とはかなり違う存在になっているのが分かります。
 
一方、日本においては建前上は資本主義国なのですが、②「メンバーシップ」の性質的に構成員(正社員)を囲い込む傾向にあり、その結果雇用の流動性が失われることになります。つまり、転職市場が一般的な資本主義国と比較すると貧弱で、転職の際にはかなりのキャリアダウンを覚悟する必要があります。これは自分の体感に当てはめてみても納得で、伝統的な日本企業で出世するのは新卒から入社していた、いわゆる「プロパー社員」であることが殆どであるというのは世間常識で、自分の体験でも特殊なケースを除くと全くその通りです。雇われの労働者のまま、こうした日本企業の呪縛から逃れるためにはいわゆる「外資系企業」に逃れる必要があるわけですが、外資系企業の本社機能は当然「海外」にあるわけで、多くの日本人は、そうした外資系企業の「日本支店」の仕事で我慢(内容的にも待遇的にも本社に劣る)するか、もしくは本社の花形部署で働くためには日本から脱出する必要があり、後者の選択肢は多くの日本人にとって能力的にも環境的にも難しい問題であると感じています。結果、労働環境に対する選択肢が失われ、今の所属組織の中で認められるための努力に全力を尽くすという内向きな活動に没頭することになります。これが結果的にかつての「奴隷」に近い存在であるという指摘が記事のタイトルに繋がっています(なんか書いてて悲しくなってきた)。
 
個人的には、縛られる対象がオーナーではなく自分自身も参加している共同体なので、これもやはり「奴隷」とは大分本質が異なるのではないかと思いますが、行動の傾向が奴隷に近くなるという現象自体はそうかもなと思いました。
 
労働者にとってはどちらが良くてどちらが悪いという話ではないと思っています。①「オーナーシップ」では労働者は多くの選択肢を持つ代わりに、能力を証明し続けないと自分の身分は保証されません(ただ、日本人はこれを実態以上に過大に見積もっている気もしますが)。一方、②「メンバーシップ」では労働者は労働環境に関する選択肢を持たない代わりに組織に身分を保証してもらえます。
 
最後はその労働者の能力と志向、周辺環境によってくると思いますが、やはりどちらを選ぶか、選択肢はあるようにしておきたいですね。